書籍

耽奇漫録

物欲界に燦然と輝く名著。 所有欲、顕示欲の古典にして聖典。 江戸文政七年(1824)から八年にかけて 数寄者たちが持ち寄った珍品奇物の記録。 雑学者山崎美成を中心に、 曲亭馬琴、谷文晁も加わった耽奇会の圖録。 その背景には博物学的趣味人木村蒹葭堂の影…

球型書架

透明で圓い本棚にわたくしはなりたい。 地球という天体のような全球的叡智を持ちたいと願う ・ 一本の草に触れる小さな虫のように 本を読む。 土に還る日まで そう過ごしていたい 虫の暮らしに詰まらぬ意味などないように 本を読むにも意味を需めたくない ・…

『白磁盒子』井筒豊子

この 世に隠れたる名篇を 佐藤春夫は同書の序で こう述べる。 「井筒夫人は博言多識、天才的学者との聞えの高い郎君の影響感化によるものか、近東、中東的な一風変わった話題を豊富に持ち、また生来独自のものと見える多少怪異な幻想の間に情操こまやかに高…

『カフカ/夜の時間』 高橋悠治

ほんとうに久し振りに高橋悠治の新刊が同時に幾冊か書店の棚に列び始めた。 “あの真摯で早熟で老成した思索者”が還ってきた/笑。 これはやっぱり朗報でしょう。 「21世紀の世界」を考えていく上で貴重なヒントを与えてくれるとても重要な思想を紡いでいる人…

『詩学入門』エズラ・パウンド/沢崎順之助 訳

「だれか韻律論のいい論文を書いてくれないかしら」とある美しい婦人が溜息まじりに言っているのを聞いたことがある。 彼女はイプセン劇の有名な女優だったほどだから、これは単なるディレッタンティズムではなかった。なくて困っているものをほんとうに心か…

『老子の講義』諸橋轍次 著

過日、新倉俊一の『詩人たちの世紀 / 西脇順三郎とエズラ・パウンド』を読んでいると、晩年の西脇がこの本で老子に親炙したことが書いてあり、何だか嬉しいような微笑ましいような感覚に包まれた事を憶えている。 著者は言うまでもなく、あの諸橋『大漢和辞…

『東京氣違い部落』 きだ・みのる著

文人大使と呼ばれた戦前の駐日フランス大使で 詩人としても知られるポール・クローデルと炉端に座って 汚い茶碗で酒を酌み交わす写真を 遠い昔に見たことがある。 あれが氣違い部落の彼の家である。 豪奢な酒盛り。 アンチームな空間での この上なくシックな…

『スラップスティック』カート・ヴォネガット

まだ若かった大江健三郎にカート・ヴォネガット・ジュニアを教えたのは、 五歳年上の武満徹だったそうだ。 2001年2月22日 武満徹没後5年の東京オペラシティコンサートホールでの“タケミツメモリアル”の一環として行われた大江健三郎講演『武満徹のエラボレ…

すべてかりそめにすぎない。『自省録』

野営する皇帝・マルクス・アウレーリウス・アントーニーヌスは 1800年もの長期に渡って読み継がれてきた『自省録』のなかで 《すべてかりそめにすぎない》と陳べ 更にこう言葉を継ぐ。 《おぼえる者もおぼえられる者も。》 あるいはこんな行(くだり)はもっ…

『最終講義/分裂病私見』中井久夫

基本的に読書とは 兼好法師の仰るように 「見ぬ世の人を友とする」 事 だから 生きている人の本は 読む中心にないが この人は別。 現存する日本人の学者/著作家で 信頼するに足る 稀な一人。 少なからず在る この人の 著書/訳書から 一冊を選ぶことは とても…

『ヴァリス』フィリップ・K・ディック

小説の【内部空間】と 自分の【現実】とが相互に浸透し 自分の【時間】に 本の時間が顕れなければ あなたは未だ真実の本と出会っていない。 20年ぶりに読んだが この本はまだまだ生きて【現役】だった。 本当の聖なる【狂気】を知りたければ この 書物を超え…

Internet Bookmobile

グーテンベルグ計画とも連動した‘新しい図書館運動’インターネット・アーカイヴが更に活動的になった。 屋根の上にアンテナを載せたブックモービルで どこにでも出掛けて行き 版権の切れた或いは著者自身によって版権が放棄された図書1000000(soon)冊を イ…

『ポオとヴァレリー/明晰の魔・詩学』

「ポール・ヴァレリーが亡くなった一九四五年は、約一世紀にもわたるフランスでのポオ崇拝の終焉を意味している。この崇拝はボオドレールがポオの物語を発見し、それをフランス語に翻訳する作業に専念しようと決意した一八四七年から始まる。フランスでポオ…

『チャー坊遺稿集 1950ー1994』

「村八分」のチャー坊こと柴田和志の遺稿集が昨年の暮れにひっそりと出た。 それを知ってAmazonでは取り寄せに時間が掛かるようなので 直接 飛鳥新社に注文した。 ・ 電話した翌朝 たまたまエリー・フォールの『古代美術』を読んでいる時に届いた。思ってい…

『茶事遍路』 陳舜臣・著

帯にはこう書かれている。 「唐の茶聖・陸羽を祖として発達した中国の茶文化。茶で心を鎮め、詩文を草した多くの文人墨客たち。かぎりなく贅沢品となって国を滅ぼした茶、欧米に広まり戦争の引き金となった茶‥‥‥ 」 ・ やや大きめの活字で ゆったり組まれた …

『偶然性の問題』 九鬼周造・著

深い意味はない。書架に九鬼周造や西田幾多郎 和辻哲郎 ブルーノ・タウト等が並んでいた。 偶々それら古い本に眼が留まって面白いと思ったまでの事・・・。 昭和十年十二月十五日に第一刷が出ている。 手元のは 昭和四十三年五月十日 第八刷。 今日は 2003年…

『自覺に於ける直觀と反省』 西田幾多郎・著

勿論これは一種の洒落である。 最近になって〈「思索の人」の全貌を開示する,新編集による半世紀ぶりの新版全集〉が出るというので 旧い活版印刷に布張りの昔の岩波書店の単行本を偲んでみた。 改めて手にして何よりも驚くのは 活版の組版の仕方である。 例…

『緑芽十片』 布目潮風・著

副題を「歴史にみる中国の喫茶文化」という本書の書名は 唐は白居易の詩句 《緑芽十片火前の春》から摂ったと“プロローグ”にある。 本を読むなら 信頼に足る人のものを読むべきだ。 茶書もしかり。 著者は中国唐代史を専門とする1919年生まれの歴史学者。 こ…

『T.S.エリオット 三月兎の調べ 詩篇1909-1917』

壁に一枚のやや大きな銅版畫が掛けられている その畫の中に ‘In the room the women come and go Talking of Michelangelo.’ と言葉/文字が 朱く刷られている。 T.S.エリオットの詩『J.アルフレッド・プルーフロックの恋歌』から採った一節。 D.ホックニー 1…

『工藝の道』柳宗悦

「心は淨土に誘はれ乍ら、 身は現世に繋がれてゐる。 私達は此宿命をどう考へたらよいか。 異る三個の道が目前に開けてくる。 現世を斷ち切って淨土に行くか、 淨土を見棄てて現世に走るか。 一つは夢幻に溺れ易く、 一つは煩悩に流されるであらう。 何れも…

『日夏耿之介宛書簡集ー学匠詩人の交友圏』

拝復、 拙詩幸ひにして大兄の愛読を得、小生の悦びこれにまさるものはありません。御言葉の如く、小生としても大兄を以て唯一の知己と考へるもの、昔「轉身」の頃より、貴詩のエプスリ(ママ)を理解することに於て、詩壇中小生最も大兄に親身の愛を感じ得る…

『若きパルク/魅惑』ポール・ヴァレリー

ヴァレリーを代表する二冊の詩集を中井久夫が譯し一本に纏めた。これはヴァレリーの本であると同時に 中井久夫の傑出した【著作】でもある。 例えば 『魅惑』の《蛇の企み》。このような言葉に僕は深く頷くだろう。 ・ 「空間」は神の間違ひ! 「時間」は神…

絵本『おみまい』

予兆に満ちた 現代[NIPPON]絵本の傑作が 矢川澄子ぶん 宇野亜喜良え 『おみまい』だ。 だあれもいない みちばたの かきねにさいてた あかいバラ でも やっぱり みつかって しまったの ・ おばさんの病気見舞いに行く途中の少女は 庭に植わっていた薔薇一輪を…

『詩の者籍國重二』/著郎次米口野

詩人 ヨネ・野口と云っても多くの人は知らないだろう。 イサム・ノグチの父。 といっても父親としての義務は全く果たさなかった 不実で卑劣な助平親爺である。 この人物のことが 頭を掠めるたびにボクは ある種典型的な日本人の醜い姿 倫理性も論理性も何処…

『原弘と「僕達の新活版術」/活字・写真・印刷の一九三〇年代』

あまり聞き慣れない「新活版術」とは1920年代から30年代にかけてドイツ、オーストリア、ハンガリー、チェコスロヴァキアなど中欧諸国を席巻した国際的な近代タイポグラフィ運動“ノイエ・テュポグラフィ”を訳した言葉だ。 それにしても 良いタイトルだ。読ん…

『万暦赤絵』志賀直哉

「ある時、私は梅原龍三郎の家で万暦の花瓶を見せられた。 もちろん、本能寺所蔵の品とは比較にならなかったが、 美しいものに思った。 幾つにも破れたのを漆で修繕してある。 柳宗悦の説では万暦と云えないこともないが、と疑問にしていたそうだ。 梅原自身…

『真理のことば』中村元

ダンマパダ(Dhammapada)の名で 南方アジアに古くから 親しまれた教典。 『法句経』(ほっくきょう) として我が国でも 大正年間から 翻訳され 読まれてきた。 中村元先生の訳文は パーリ語の原文の持つ 簡明さ(だからこそ愛誦された)を伝える。 『その簡…

『超越のことば』井筒俊彦

信じられない《「不可視界」の「濃霧」の奥から、 神の声が聞こえてくる。 神の声、神のコトバ。 ヤスパース的な表現を借りるなら、 神が人間に向かって「暗号」を送ってくるのだ。》 20世紀はもっと 精神的に深く豊かな世紀になる筈だった。 我々は足踏みし…

『武満徹←1930…………∞』武満徹

1964・3・20印刷・発行 発行者も武満徹 成城の自宅住所と電話番号 が奥付に書かれている。 私家版で限定500部。 18センチ四方の楚々として 爽やかな造りの本だ。 滝口修造が巻頭に 「夢から」 という短い序を捧げ 扉には 杉浦康平とのコラボレーション 「G-…

BOOK OFFの『宇宙の関係のすべて/宮島達男』

光琳社が倒産して ブックオフに大量の本が流れた これもその一つ。 そして現代美術家/宮島の作品/本と BOOK OFFの組み合わせが 何とも現代日本的で シュールレアル (笑)。 現代美術センターCCA北九州 の発行で2800円もする 美しい装幀の 函入り本 なのに 2…