「心は淨土に誘はれ乍ら、
身は現世に繋がれてゐる。
私達は此宿命をどう考へたらよいか。
異る三個の道が目前に開けてくる。
現世を斷ち切って淨土に行くか、
淨土を見棄てて現世に走るか。
一つは夢幻に溺れ易く、
一つは煩悩に流されるであらう。
何れもが心に満たない時に、
第三の道が開けてくる。
輿へられた現世である。
そこには何か意味がなければならぬ。
世も空(うつろ)なる世ではないであらう。
此世を心の淨土と思ひ得ないだらうか。
此地を天への扉と云ひ得ないだらうか。
(中略)
地に咲けよとて天から贈れた其花の一つを、
今し工藝と私は呼ばう。」
此の本の書き出しの部分
「工藝の美」と題されたところ。
一編の詩と云うより
まさにお経である。
このとき柳宗悦 39歳。
昭和三年十二月
伊藤長藏の【ぐろりあ そさえて】から
美しい本で出されている。
此の父無くば
柳宗理もあり得ない