『白磁盒子』井筒豊子
この 世に隠れたる名篇を
佐藤春夫は同書の序で こう述べる。
「井筒夫人は博言多識、天才的学者との聞えの高い郎君の影響感化によるものか、近東、中東的な一風変わった話題を豊富に持ち、また生来独自のものと見える多少怪異な幻想の間に情操こまやかに高華な心情を託したその作風は、現代に時を得た一般の才女の艶に生めいたものとは自らに別個の行き方である。」
もっと長い文章の全体を良く読むと
余り褒めてはいないような微妙な「序」だが、
「一九五九年花を待つころ
東都目白坂にて 佐藤春夫記す」とあるように
40年余の前に書かれたこの短篇集には
骨董の不可思議を描いた表題作を始め
七つの話が収められている。
佐藤春夫が何といおうとわたしは此の小説たちが
好きだ。
此処には
職業作家にない大事なものが含まれている。
夫君の井筒俊彦に関心のある向きには「必読」
であることはいうまでもない。
彼の日常と思想の断片が散見する
“大説”の味わいを持った掌篇・・・
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