『最終講義/分裂病私見』中井久夫

基本的に読書とは

兼好法師の仰るように

「見ぬ世の人を友とする」

だから 生きている人の本は

読む中心にないが

この人は別。

現存する日本人の学者/著作家で

信頼するに足る

稀な一人。

少なからず在る 

この人の 著書/訳書から

一冊を選ぶことは

とても困難だけど 敢えて択ぶと

この『最終講義』。

30年間の分裂病治療と研究

が 簡潔極まる形で

魂に触れる

言葉として 文字になり

そこに ある・・・

 

話変わって

わたくしがこの人を

深く信頼するに至ったのは

ほとんど些末なことから。

戦争中

中井久夫少年は軍艦マニアで

 

あったという

確か『記憶の肖像』での記述。

そこには生き生きとして知的な少年の姿が

描かれていた。

それともう一つ

本の趣味がいい。

最初の『カヴァフィス全詩集』

の造本の美しいこと!

或いはヴァレリー『若きパルク/魅惑』

もシックで綺麗。

本の趣味のよい学者は

この国では稀である。

そして

この人の向こうに

いつも神谷美恵子

感じられるのも

深い信頼と関係あるだろう。