絵本『おみまい』

予兆に満ちた 現代[NIPPON]絵本の傑作が

矢川澄子ぶん 宇野亜喜良え 『おみまい』だ。

  だあれもいない みちばたの

  かきねにさいてた あかいバラ

  でも

  

  やっぱり みつかって しまったの

          ・

おばさんの病気見舞いに行く途中の少女は 庭に植わっていた薔薇一輪を 摘む。

猫がそれを見ていた。

この絵本の エンディングを矢川澄子は 二種類書いたという。 

 一見ハッピーに見えるのと アンハッピーのそれ

(詳しくは 『ユリイカ臨時増刊 不滅の少女/矢川澄子』を読んで欲しい。)

グリムやエンデ 或いはポール・ギャリコなど 本当にたくさんの翻訳や絵本

(ボクが一番好きなのは トミー・ウンゲラーの『キスなんてだいきらい』)

で知られる矢川さんの

これが70歳にして初めての自作『絵本』だという。 

自裁まで残すところ12ヶ月の出版・・・)

          ・

それにしても

 この本で見る 宇野亜喜良の 絵の凄さは

なんだろう・・・

言葉が始まる前の 扉ページの 歩く少女の頭上には 航空機が 腹を見せて 飛んでいる・・・

 

描かれた少女の なんと蠱惑的なことか。

ワンピースと言うより ドレスには 愛らしいペンギンの姿が描かれているのだが それが 猫と共に 名バイプレイヤーであり おそらく 妖精なのだ・・

          ・

矢川澄子氏への弔意と共に 宇野亜喜良氏へ最大級の敬意を!

    不滅の少女/矢川澄子

偶々 取り出して眺めていた ポール・ヴァレリーの 

『若きパルク』の中から こんな断片を 贈る。

              訳は 中井久夫氏。

          ・

巫女も巫女でなくなって……幼い乙女に戻り

知らない階段から落ちまいとして

手を高くさしのべて空をつかむが儚い。

今はもう墜落の傷痕を頭に残す死女らの願ひに譲って

呼吸一つを顔とする秋である……

                 静かに、柔らかに、

私は今ここに。私の額はこの肯なひを受ける……

この身体を許し、ただ燃え殻を味はふ。

下りゆくこの幸に悉く己を委ねて、

黒い証し人らに身を開き、腕は金縛りに、

我もなく、涯もなく、ふつふつと呟く言葉の間を下る。

わが賢しさよ、いっそ眠れ、眠れ、この不在の形を取れ。

戻れよ、元の胎ら子らに、昏い無垢のうちに、

委ねよ、きみを、生きながら、蛇どもに、様々な宝に。

眠れよ眠れ! 下れよ眠れ、いかほども! 下れ、眠れよ眠れ!

          ・

・彼女はオスカー・ワイルドの翻訳者でもあった・・・