粗い編み目の雑嚢に入った本あるいは記憶
かつて定義したところによれば
「書籍とは外部にある記憶である」
やや神秘的なニュアンスを持つ定義/aphorismだが
外部とはいっても「記憶」だから「自分にないものは理解できない」を重要な含意とする
それは一〇〇〇年を経た古典だろうが 出版されたばかりの新刊であっても同じこと
個人を超えた深層に呼応するものがあってこその読解であり「理会」である
河井寛次郎の卓越した言葉「もの買ってくる 自分買ってくる」
を改めて再活用/リサイクルしていえば
「ホン読んでいる ジブン読んでいる」。
この「事実」に気づかず 自分にない別な まったく新しいことを教えてもらう
そのように卑屈に考えるひとの多くは
サイズの合わない靴のような 自分に合っていない本
あるいは読む必要のない本を手にする
有名人である小説家の本とか 大衆に迎合してよく売れる本とか 新聞書評に取り上げられた本とか 。。。
そのような鈍感で愚かな選書と読書によって もともとのお莫迦細胞がさらに加速度的に増殖していく
残念なことに
この世は悲劇にみちていると同時に滑稽であるのだ
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昨年 鶴見俊輔さんを自らのうちに記念したくて買った編集グループSUREの瀟洒な小型本『鶴見俊輔全詩集』から
一片の詩を引用しておこう
「ある日」
《 おれは 地球にできたかさぶただ
風に吹かれて はがされてゆく
身をひるがえし ふたたび地に落ちるとしても
別の境涯が待っているだろう
おおかたの自分の歴史が終り
見きわめにくいものの一部として
ふりつもり
見る目をもった質量となって
この自分に対す 》
『鶴見俊輔全詩集』に限らず昨年買った新刊書は 小さな版元や機関刊行物あるいは個人的な出版物がおおい
失念したものや棚に紛れてしまったものもあるだろうが分かるものを簡潔に記す
『Any given day: CONTACT #1 』 岡原功祐 Kosuke Okahara Works
『Almost Paradise 』 岡原功祐 Only Photography
『 Fukushima Fragments 』 Kosuke Okahara Editions de la Martiniere
『CAMP 1979 』北島敬三 SUPER LABO
『Furniture Design of George Nakashima, Past and Present』アメリカ広葉樹輸出協会/AHEC
『ON KAWARA SILENCE 』Guggenheim Museum
『 Your Body is Yours 』ヴォルフガング・ティルマンス 国立国際美術館
『温故知新』ON KAWARA DONALD JUDD 現代芸術振興財団
『姫の水の記』川崎長太郎 Tokyo Publishing House
『魔法使いの弟子』ジョルジュ・バタイユ 酒井健 訳 景文館書店
『叡智の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』若松英輔 慶應義塾大学出版会
『アメリカ大陸のナチ文学』ロベルト・ボローニョ 野谷文昭 訳 白水社
『統辞構造論/付『言語理論の論理構造』序論』チョムスキー 福井直樹 辻子美保子 訳 岩波文庫
購入した古書は美術書・写真集を中心としてかなりな量になったが大物としては箱入りの
『Running Fence, Sonoma and Marin Counties, California, 1972-76』Christo Abrams, New York, USA. 1978
『Histoire(s) du cinema 』JEAN-LUC GODARD GALLIMARD - GAUMONT 1998
『JEAN-LUC GODARD HISTOIRE(S) DU CINEMA 』ECM NEW SERIES 1999
小型本も回帰傾向を示していて 典型的なものは
『クララ洋裁研究所』立花文穂 BURNER BROS. 2000
『JOURNAL MURAL MAI 68 』TCHOU , EDITEUR 1968
『壁は語る 学生はこう考える』J・ブザンソン 編 竹内書店 1969
『革命年代/TIME OF REVOLUTION 』南方日報出版社 2010
『毛主席語録』を源流とする赤い小型本の大河に属している
五月革命に関連した重要な本を忘れていた 毎日つぎつぎと刷られ路上に貼られていった革命的スローガンポスター
『BEAUTY IS IN THE STREET / A VISUAL RECORD OF THE MAY '68 PARIS UPRISING 』Four Corners Books 2011
主に「Atelier Populaire/民衆工房」が製作したビラやポスターの貴重な資料集「紙のタイムマシーン」
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この際 読み終わったものも 読みかけも 未読もありますが
定まった位置のベッド脇に置かれた図書館から借りている本を紹介します
『我々はどのような生き物なのか』チョムスキー 福井 辻子 訳 岩波書店
『デモクラシーの生と死』上 ジョン・キーン 森本醇 訳 みすず書房
『無神論』アレクサンドル・コジェーブ 今井真介 訳 法政大学出版局
『哲学は何を問うてきたか』レシェク・コワコフスキ 藤田祐 訳 みすず書房
『歩兵は攻撃する』エルヴィン・ロンメル 浜野喬士 訳 作品社
『68年5月』ローラン・ジョフラン コリン・コバヤシ 訳 インスクリプト
『反逆の神話/カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』ジョセフ・ヒース+アンドルー・ポター 栗原百代 訳 NTT出版
『「物質」の蜂起をめざして/レーニン〈力〉の思想』増補新版 白井聡 作品社
『グノーシスと古代末期の精神 第一部 神話論的グノーシス』ハンス・ヨナス 大貫隆 訳 ぷねうま舎
その他 マングェルの『読書礼讃』や和田春樹さんの『資料集 コミンテルンと日本共産党』 ブノワ・ペータース『デリダ伝』
トニー・ジャット『20世紀を考える』 クリスティン・ロス『68年5月とその後――反乱の記憶・表象・現在』
小林哲也『ベンヤミンにおける「純化」の思考 「アンファング」から「カール・クラウス」まで』
安藤礼二『折口信夫』 などなどに智の昂奮を覚え さまざまな意味で励まされた
ここに記して感謝の意を表したい