続・或る日の神保町/購書目録

『病める舞姫』を背中のグレゴリーにオンブするように入れ 迷子になっていた

吉増剛造吉本隆明宛献呈本の手を引いた僕は かなり気分良く 南洋堂に歩を進めた。

中二階で 白井晟一の『デッサンとエスキース集』を眺めた後 上の部屋へ。

古書を集めたコーナーの一角に視線が留まった。

見たこと無い佇まいの大判の本。

背中の書名は『エットレ・ソットサス習作集1986/1990』

濃紺のカバーに白抜きのタイトル。

表紙には 見慣れない書体で英文と併記して

エットレ・ソットサス アドバンスト・スタディズ 1986/1990』

版元は「財団法人山際照明造形美術振興会」

表紙をあけると 勢いのある字でこう書いてあった。

CIAO

LOVE

ETTORE

その下に さっと引かれた傍線。

おや これもサイン本。

あのイタリアの【魔法遣い】エットーレ・ソットサスの署名でありました。

それにしてもこの本 一見簡素な佇まいながら 見れば見るほど凄い。

グラフィック・デザインはソットサス・アソシエイツ

/マリオ・ミリツィア、フランコ・ルキーニ

写植はグラフィカ・ミラノ社

印刷はナヴァWeb社 とすべてイタリアで制作している。

流石に刊年1990年。泡沫景気ピーク時の産物と云えそうだ。

文章を倉俣史朗磯崎新が書いている。

ヤマギワが同年に開いたソットサスの“ライト・イズ・アーキテクチュア展”に併せて出版した物で 価格は表記されていないから非売品のようだ。

(一年近く経った今日 深い折り返しのある‘立派なWダストジャケット’を外して見ると何と表3に1990年4月1日 発行 定価8000円 編者 ソットサス・アソシエイツ 発行人 小長谷兵五 とあった。

全て英文併記 流石はイタリア流 日本と常識が違っていた)2003Y18追記

素晴らしい本。

僅かに4500円。

しかしちょっと重そうだから もう少し廻って取りに来るからと頼む。

さて お次はブックブラザー源喜堂。

洋書の棚をじっくり。

しかしどうしても欲しいという物は見あたらない。

展覧会カタログも二冊ほどどうしようかなぁというのが あったけど今日の水準からは落ちる。

李禹煥の美術出版社版作品集も署名なし30000円が妙に高く感じる。

奥左手の棚をじっと睨んでいたら漸く

『詩畫集 エドガー・アラン・ポオ 大鴉 ギュスターヴ・ドレ畫 日夏耿之介譯』が。

箱は少し擦れているけど1975年出帆社刊。

当時の定価2000円が1500円。

先日 ポオとヴァレリーを読み 関心空間の語彙に収めたばかり。しかも譯が日夏耿之介。延々と縁。

戴こう。

それを片手に店内最期のご挨拶をしていると

オヤッ。

濱谷さんの『日本の詩歌』在るじゃはありませんか(笑)。

しかも段ボール製の外函こそ無いもののキチンと箱もついてなんと値段が2000円。

30年前の頒価18000円だった物が・・・だ。

ああ濱谷さん 有り難う。

何だか 濱谷さんのウィンクが目に浮かぶ。

          ・

2002年12月28日の午後二時過ぎから四時半頃までの約二時間。

「或る日の神保町」というのは勿論 横山大観の晩年の傑作『或る日の太平洋』から採ったものです。

あの本畫もさることながら数十枚にわたる下絵の素晴らしさ!

そして僕にとって 神保町は本当に海なのですから・・・