みすず書房から
予約していたペーター・ツムトア『建築を考える』特装版が 届いた
五月に出た 普通の『建築を考える』鈴木仁子 訳 葛西薫 装幀 も
美しい本だった
が
これはNUNO 須藤玲子のクロスを用いた布装
便利堂 コロタイプ印刷によるツムトアの建築ドローイングが付いた 限定頒布版
一九九八年に『ピーター・ズントー a+u 1998年2月号臨時増刊』を
書店で手にし 強い印象を受けながら
購入を躊躇した 悔いもあり
遅疑逡巡なく 予約に応じた
書籍そのもの の 判型は同じだが 玻璃彩版によるモノクローム紙片
のため 大きな紙筺にはいっている
半年を経て あらたに読み直し
第一章「物を見つめる」の 第二節 《 素材から造られる 》に さらに惹かれる
引用しよう
《 ヨーゼフ・ボイスやアルテ・ポーヴェラ派の何人かのアーティストの作品には啓発される。
とりわけ感銘を受けるのは、彼らの芸術作品において、素材が的確かつ感覚的に用いられている点だ。
その使用法は人類による素材の利用についての古来の知識に根ざしつつ、同時に、文化的に付与された
意味を超えた、素材そのものの本質を顕現させているように思われる。 》
ボイスの名を ツムトアの文のなかに読むのは 愉しく 嬉しく
さてもさても こころに響く
そして
「Arte Povera/貧しい芸術」と 人名 ヨーゼフ・ボイスが 併記されるのも 。。。
簡素な技藝たる アルテ・ポーヴェラ性を
不思議なことに
この特装版は 有す
それは
五月の版には巻頭を占めた 杉本博司 の 三葉の口絵写真
帯にあった 安藤忠雄 の 蒙昧な推奨文とともに
霧消していた
これは恐らく 建築家自身の要請だと思うが
この純化 喨喨 ストイックさを 評価する
「文章だけに集中し 読んで欲しい」ツムトアがそう述べているのを 読んだことがある
十代のころ いつも神経の近くにあった ストイシズムを いま振り返る
高潔 高貴な ストイシズムこそ いま現代知性に 必要である
あの マルクス・アウレーリウス のように
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みすず書房には これまで優れた「限定版」が 瀧口修造の『余白に書く』や
『辻まこと全画集』 中井久夫訳『カヴァフィス全詩集』など いくつかあった
しかし
階級制を内包する 通常版と特装版を 製作したのは
ぼくの知る限り 初めて
これが崩壊への凶兆 不吉な黒蝶の羽ばたき / butterfly effect
あるいは
美しくも寂寥たる「白鳥の歌」ではない ことを 祈る
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