眉雪 その秋 。
寝台で眼をあけると 夜中でも明け方でも 小さなLEDに照らされ
右側に
ローテーブルに載った 本が見える
ぼんやりと浮かんだ書影 そこにあるだけで悦楽的に精神を安定させる閑寂な「物象」
暮れなずむ あるいは払暁の丘陵を斜めうえから瞰るような
静穏で幽かな眺望
俗に言う「珈琲卓子図書」の真夜中ヴァージョン
だが
イングリッシュウォールナットの低いテーブルは 180cm ⅹ 85cm とかなり巨きく
二〇冊や三〇冊載せても 視覚的にも重量的にもバランスが崩れない
コト・ボロフォ「ロールズロイス自動車会社」写真集に イルマ・ボーム デザイン『オールフェラーリエンジンズ』
『井筒俊彦文庫目録』など
気まぐれかつ不定期に入れ替わる フェバリットな展示の堆積
その小山に ごく最近加わったのは 北島敬三『 USSR 1991』と 柳宗悦『茶と美』特装版
☆
霜月朔日を過ぎたころ『茶と美』特装版とどく ふかぶかと秋を感じる内容・装幀・造本
昭和一六年刊行だから七〇年余を経ているのに
和紙印刷の本は まったく積年の老いを感じさせない
手繰った痕跡もほとんどない
恵まれた環境で永い睡りについていたのだろう
『柳宗悦全集』第二二巻下「著作目録」によれば 《 定價 特装本二三圓 並装本五圓 》
《 著者書込みに「特装本は〆て百〇二冊印行、内十二冊知友に贈る、九十冊一般に頒つ」とある。》
むかしは常ならぬ高価な本だったから二〇, 三〇代の青年にはとても手が届かなかった
玉英堂二階では二十万円位の値段が付いていたことを憶えている
『朝鮮の美術』『陶磁器の美』はそれぞれ二十五万 *
『船箪笥』は更に高価で拵帙附きとはいえ四十五万円 * 、、、。
( * 印は玉英堂稀覯本書目にて確認)
新世紀を迎えた頃から かつては「幻」の付いた超稀覯書をまま見るようになった
価格も
三〇年前の1/3 から1/5ほどと かなり手に入りやすい
なのでヤフオクでも5〜6万を心づもりしていたが ほぼ半額で落札できた
☆
時系列的に話を戻すと
芹澤銈介のガラス絵「椅子」。これはヤフオク当日の朝 慎重に再検討すると
椅子を三脚描く構図はとても巧みで まるでゴッホだが
パースペクティブを頓着しない芹澤流と異なり 筆が粗く高雅さに欠ける
綜合的に贋作と判断して 入札を見送った
案の定 落札価格は一万四千円 1000円開始の6人40入札
同時に出ていたガラス絵「張り子の馬」一万五千円 ふたつの値段は間違いなく「模写」
それにしても芹澤銈介のガラス絵は贋作が多いし あるいは板絵も怪しげなものが、、
被害を受けた古本屋さんが書いたらしい
小説仕立てのこんなブログまである「京都鴨川飛石殺人事件 志功・銈介・剋太贋作闇ルートを探る」
(銈介 贋作でググってね)
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ところで《八木俊樹が編集した超がつくほどの「ある稀覯書」》とは
ご存知『谷川雁著作集 無(プラズマ)の造形』八木俊樹私刊の五〇部本 。。。。
高価なため 決断にやや時間がかかり
石神井書林に註文したものの既に売却済み
残念でもあったが ホッとしたのは半面の事実 / 笑。
手許には河出書房版の『谷川雁の仕事』があるから 読むにはそれで「代用」できる
資料として入手した『八木俊樹君追悼文集 無形(プラズマ)の追想』を読むと
大里俊晴の追悼文集『役立たずの彼方に 大里俊晴に捧ぐ』と奇妙に重なる部分がある
八木俊樹(五三歳没)と大里俊晴(五一歳没)には
現代の破滅型としての共通の匂いがある。。。。
しかし
八木俊樹を知る人は 大里を知らない 大里俊晴を知る人は八木を知らない
ほんの十五歳しか違わないのに 不思議なものだ
とにかく
と
『逆説の對位法 (ディアレクティーク) : 八木俊樹全文集』を手に入れよう
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そこで 心置きなく かねて懸案の北島敬三を買い始めた
今回まず手に入れたのは『Untitled Records vol.2』Special Edition
限定12部 オリジナルプリント附き
この『2010.6.4 Taito 大東』という写真に 何故かつよく惹かれた
それから 『USSR 1991』
それにしても 北島敬三の作品集は造本が見事だ
それぞれ必然性のある厚さ 薄さ 大きさ 斬新さ 大胆さ 叮嚀な作り込み など
第一級の装幀家が裸足で逃げるほど素晴らしい 。。。。。
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・・・《 硝子のコンポートに「ロマネスコ」を載せて》の続きとして ・・・