1969年10月31日に初版発行。
何処か仏蘭西装を想わせる
瀟洒なホワイト紙の本体に
表紙の文字は青色と緑色を
極シンプルに用いている。
函はサム・フランシスの絵
に似た紺系アブストラクト
吉中道夫が描いた画の上に
【L'offrande au neant】
〈虚無への供物〉の仏語訳
というかヴァレリーの詩句
を小さく白抜きで散らし気味に
あしらっている。(neantのtが
抜けているのは御愛敬)
武満は
この本を『虚無への供物』と
して考えていたようで、
栞のようなリーフレットに
『装幀のことば』として
以下のように書いている。
《『虚無への供物』の装幀を試みることになり、素人の無鉄砲を恥ずかしく思いながら、ことさらにこの傑作の重さを識り、今はもう手も足も出ない。
さて、拱いた手をほどき恭々しくこの「捧物(ささげもの)」に差しのべる。このうえは、私の『虚無への供物』にたいする無垢の敬意だけを汲みとっていただきたい。》
第二次大戦後の世相を色濃く反映した傑作と
戦後の日本を代表する作曲家の出会いこそ
戦後藝術的な一瞬の光芒ではなかったか。
その意味では二人ともに典型的な日本の
〈アプレゲール〉そのものである。
僕の手元にある本には中井英夫の
署名とともにL'offrande au……
がマジックインキで書かれている。
この本以外の装幀は記載されていない
作曲家唯一の装幀作品ということになる。
厚さ大きさ判型や
ビニールカバー等
神経が行き届いた
美しく好ましい本。
三一書房刊/510頁
当時の定価1800円
武満に装幀させる事を考えのは
編集をした斎藤慎爾だろうか。