寺田寅彦とお化け。

寺田が『化け物の進化』という随筆でこんなことを書いていた。

《 化け物がないと思うのはかえってほんとうの迷信である。 宇宙は永久に怪異に満ちている。 あらゆる科学の書物百鬼夜行絵巻物である。 それをひもといてその怪異に戦慄(せんりつ)する心持ちがなくなれば、もう科学は死んでしまうのである。 》

流石に「理系あたま・文系あたま」など黴の生えた陳腐なことを考えない頭脳を持つ

「天災」寅彦博士の卓見卓説である/笑。

結びはこんな文章。

《 伝聞するところによると現代物理学の第一人者であるデンマークのニエルス・ボーアは現代物理学の根本に横たわるある矛盾を論じた際に、この矛盾を解きうるまでにわれわれ人間の頭はまだ進んでいないだろうという意味の事を言ったそうである。 この尊敬すべき大家の謙遜(けんそん)な言葉は今の科学で何事でもわかるはずだと考えるような迷信者に対する箴言(しんげん)であると同時に、また私のいわゆる「化け物」の存在を許す認容の言葉であるかとも思う。 もしそうだとすると長い間封じ込められていた化け物どももこれから公然と大手をふって歩ける事になるのであるが、これもしかし私の疑心暗鬼的の解釈かもしれない。 識者の啓蒙(けいもう)を待つばかりである。》 (昭和四年一月 改造)

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