未だ明けやらぬ早朝の表参道を
ゆっくり過ぎるほど ユーックリ
身体を揺らしながら歩いているのを見た事がある。
片手に酒瓶を握っていた・・・
その姿は
若い僕の目からは
憂鬱の海 に張られた
沈鬱の綱 の上を
酩酊 の棒で
バランスしている天才曲芸師に見えた・・・・
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やはり ユージン・スミス という写真家は
「耽美的な作家」なのだ。
僕は その姿を見て 確信した。
彼は 戦争でも
水俣でも
人間という 惨めで残酷で可憐で哀れな 種の
僅かなほんの微かな美しさを
フィルムと
印画紙に しっかりと定着させたかったのだ。
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事実 彼の写真は 時として 酷い場面ですら 美しい。
僕の好む云い方をするなら 尊厳がある。
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