@K.・ジャレットを聴きながら午からのゑびすとともに 20051102
起つまえにおもて見やれば眩しくて温泉行くも覚悟いる昼
タツマエニオモテミヤレバマブシクテオンセンユクモカクゴイルヒル
・
@人は鳥の声一つで気づき、変わるもの、、、
for John Cage 20051007
ヴィヴァルディ流れる朝へ鳥の声 Cage 探しにふと椅子を蹴る
・
@急速に深まりゆく秋 心耳、冴えるが如く、20050926
白ねずみ走るまぼろし室の隅 秀冥菊はおとなしく落つ
シロネズミハシルマボロシヘヤノスミシュウメイギクハオトナシクオツ
・
@ある週末の閑かな一日/言葉によるクロッキーの試み。20050711
草むしり 幼き蟷螂 林檎パイ 自転車 温泉 帰路 驟雨
クサムシリオサナキトウロウアップルパイジテンシャオンセンキロシュウウ
・
@文月 雨 まいまいミー。20050701
雨ぬれの紫陽花を這う白日夢ぬらりぬるにゅれどろんで候
アメヌレノアジサイヲハウハクジツムヌラリヌルニュレドロンデソウロウ
・
@名匠逝く。玲瓏/ikuma氏の哀悼追慕に応えて塚本邦雄の霊前に 淡墨の如く。20050610
うたかたのくにもことばもことほぎてつかのまきえしおのこなるかな
・
@auより封書による通知「au電話機 拾得のご連絡」あり、警察に届けられている由。世間を見直す気分です/笑。 20050606
新talby買う気になったその朝に「迷子」発見! 速達届く
シンタルビーカウキニナッタソノアサニマイゴハッケンソクタツトドク
・
@明晰夢/覚醒夢よりやや淡く、半睡半醒で考えるのは地上的な重力の影響を受けないようで独特の愉しさ 20050603
しののめの臥所にて聴く山鳩にHyperlinkの不思議を覚ゆ
シノノメノフシドニテキクヤマバトニ ハイパァリンクノフシギヲオボユ
・
@大きな顔をした虎斑模様の雉猫と道でときどき出逢う。無愛想な中に剽軽さがあって、、、子孫も多い 20050304
おい猫や春の淡雪ふみしめて何処へ行くのかお尻ふりふり
オイネコヤハルノアワユキフミシメテ ドコヘユクノカオシリフリフリ
・
@雪景色の中を温泉に向かう。敗戦後、岩手県太田村山口に潔く自己幽閉し 唯一の愉しみに大沢温泉へ大きな長靴で通った60代の高村光太郎の姿が頻りに浮かぶ。 20050118
雪の原 温泉浴するため渡り行くゴム長の吾 光太郎想ふ。
ユキノハラユアミスルタメワタリユクごむナガノワレ コウタロウオモウ
・
@列島を浄めるように雪が包んだ大晦日元日、、、、ふと観るとまるで翁媼の見習いのような二人、、、、酔中歌 20050101
雪幻に酔うては睡る唯ふたりめでたくもありめでたくもなし
セツゲンニヨウテハネムルタダフタリ、、、、
・
@苗を手植えした白い詫助が主に相応しく通りに背を向けて咲いた。去年もその前も蕾は雪に手折れている、、、 嬉しいの一語。 20041210
朝霧に溶けいる風情詫助の 三歳ぶりなる白き花咲く
アサギリニトケイルフゼイワビスケノ ミトセブリナルシロキハナサク
・
@颱風23号が近付いた。熊や人と同じく空も海も深い鬱屈を抱える。ライヒ風にいえば「天然現象」は空に顕れる私たちの心そのものでは 20041020
冬の雨。ストーブ焚き待つ颱風も我が荒魂も太虚に還さん
フユノアメ ストーブタキマツタイフウモ ワガスサタマモソラニカエサン
・
@深まりゆく秋に手向けて造作なき花を活ける。秋冥菊の白と黄色、水引の朱が 焼締めの花器に映える、、、 隠者の花 2004929
水引と秋冥菊を投げ入れん。雨に濡れたる長月の腕
ミズヒキトシュウメイギクヲナゲイレン アメニヌレタルナガツキノウデ
・
@中国初のF1「上海GP」決勝が26日行われる。97年7月1日の香港返還/人民解放軍入城以来の大きな節目だ。革命的紅旗の時代は終わった ‥‥ 2004924
上海にF1走る、その日こそ市松の旗。革命忌
シャンハイニエフワンハシルソノヒコソ イチマツノハタカクメイオワル
・
@颱風が去ったあとの青空に鳥の声が戻り 地には天上を指さすように新たな生命が姿を見せた。南無阿弥陀佛 ・・・ 2004908
颱風の玄孫の如く茗荷花。そは獨尊の釈迦牟尼が指
タイフウノヤシャゴノゴトクミョウガバナ ソハドクソンノシャカムニガユビ
・
@8月15日前後になると敗戦のあと天皇裕仁を国民自らの手で処罰できなかった昭和人を想う あの誤魔化しが今の腐敗の根にある ・・・ 2004817
アハイトウゴリンコクレンノーベルショウスモウヤキュウニテレビシンブン
・
@昨晩、中島らも死去の報を聞く。さほど縁の濃い人ではなかったが何か何処かに響くものがある・・・人の死が他人事と想えぬ齢ゆえか・・・2004728
カザルスのバッハを聴きつ朝の酒 らもてふ人の訃報に応え
カザルスノバッハヲキキツアサノサケ ラモチョウヒトノフホウニコタエ
・
@夕暮れ近い時刻、ふと空を見あげると下方からの照明を浴び立派な雲が幾つも浮かぶ。鴇色を帯び白鯨の群のように遊弋する夏の夕雲 2004720
陽を浴びつ むれ穹ゆきぬ白鯨に西方浄土輝くを見ゆ
ヒヲアビツ ムレソラユキヌハクゲイニ サイホウジョウドカガヤクヲミユ
・
@藤森武の『獨樂/熊谷守一の世界』を眺めていると蒼い蠅が頭上に飛んできた。読本の邪魔をする訳でもなく暫くすると出ていった・・・ 2004630
モリカズノフデニウマレシアオバエガ レイツクシトブミナヅキノヘヤ
・
@「雪ノ下」は葉も可憐だが花は輪をかけたように可憐かつ簡素。羽を拡げた小さな虫の如き真っ白なハの字型の花が暑い日も雨の日も六月を咲き続ける。 2004614
白い花 虫の形に地を舞って六月の陽に 雪ノ下咲く
シロイハナムシノカタチニチヲマッテ ロクガツノヒニユキノシタサク
・
@白洲正子や宮澤賢治が愛情を注いだ「翁草」。酒と植物と天体が好きだった病床の旧友は新緑の頃 鉢植えを見せる前に逝ってしまった‥‥‥ 2004514
郭公のながくみじかき聲のもと 地へと放ちし翁草みゆ
カッコウノナガクミジカキコエノモト チヘトハナチシオキナグサミユ
・
@「二〇才 僕は五月に誕生した」と歌った寺山修司は十二月の生まれだが五月に死んだ。風と陽光に誘われ図書館の新刊棚にあった『われに五月を』を新装版で読んだ。袖擦りあわぬも多生の縁よ ・・ 2004512
寺山に似合う万年青や髭剃りの痕 絶えぬ新刊 五月の葬儀
テラヤマニニアウオモトヤヒゲソリノアト タエヌシンカンゴガツノソウギ
・
@ある映像に日本国パスポートが舐めるように写されている。僕の目には「漢字を理解」している者の視線にしか見えない。読める眼と意味不明のまま移動する視線は明らかに違うだろう‥‥‥ 2004412
戦世は魑魅魍魎が跋扈して 有象無象が倫を説く(笑)
イクサヨハチミモウリョウガバッコシテ ウゾウムゾウガミチヲトク ワ
・
@四半世紀も同行の旅をしてきたハーマンミラーの円卓上に花が活けてある。横に小さな群青原石を添えてみた。 2004407
ユキヲサケヘヤニイケタルキズイセン ラピスラズリトナニヲカタルヤ
・
@病床の友を想う。つよく強くおもう。2004406
木蓮が空に鋲うつ春の日は 友の似顔を青空に描く
モクレンガソラニビョウウツハルノヒハ トモノニガオヲアオゾラニカク
・
@進軍が始まりTVに軍服姿の映像が増えた。 布告なき「戦争」は既に始まっている。国家も民衆も 柳条湖事件や満州事変、戦に明け暮れた昭和史から 全く何も学べなかった・・・・虚無と絶望だけが空にボーッと光る 2004123
亂れ世の雲は茜に遯竄す闇ちかきゆえ空は躍るや
ミダレユノクモハアカネニトンザンス ヤミチカキユエソラハオドルヤ
・
@2004年 新春翆詠 ひとりくむ はるはうららな ひるのみき おもえば はるかへきたものよ 2004103
獨り汲む春はうららな午の御酒 想えば遙かへきたものよ
・
@単身の大晦日となった寂しさを道具で紛らわすことにした。象牙箸と江戸赤絵の小皿、グラスは瑞典のスクルーフ、デザインはインゲヤード・ローマン 箸置きは李鳳梧の白磁 三谷龍二の黒漆の板を敷く。簡素こそ侘び 獨酌こそ寂び
2003Z31
大晦咳きするひとり象牙箸江戸の赤絵にSKRUFの瑠璃
オオツゴモリセキスルヒトリゾウゲバシ エドノアカエニスクルーフノルリ
・
@自己に厳しく生きた「夢の王子」オディロンの評伝頁を捲る早朝。一緒にいるのはバッハの《クリスマス・オラトリオ》カール・リヒター 1965年の録音。 2003Z25
オラトリオ指先寒き払暁にリヒター聴きつルドン傳よむ
オラトリオ ユビサキサムキフツギョウニ リヒターキキツルドンデンヨム
・
@水晶の如き透明度を保つ冬の夜空 呼ばれるように見あげると煌々と照る半月。瞬時に気づく「ルナティックな真理」 2003Z05
燦として腦煌きぬ半月の見えざる故地に吾は横たわる
サントシテノウキラメキヌハンゲツノミエザルコチニアハヨコタワル
・
@寿命が延び耐性が増しているのはヒトやウイルスに限らない。11月下旬に咲いた小さなアサガオに江戸の「変化朝顔」をふと想う。 2003Y20
爪ほどに朝顔咲きゆ霜月の零下を超えむ地を這いつつも
ツメホドニアサガオサキユシモツキノ レイカヲコエンチヲハイツツモ
・
@11月10日は37歳で死んだランボーの命日 妻と妹だけの葬儀だった・・・閑かな秋の日差しのなか 榎木の葉と小枝が音を立てて落ちる ・・ 2003Y06
ランボーの命日近し 榎木小枝 音立てて墜つ 帽子に挿そう
ランボーノメイニチチカシ エノキサエオトタテテオツ ボウシニサソウ
・
@「大切な物は眼に見えない」と操縦士は云った。 が純粋さや可憐さは自然の中に見え隠れする。植物の偉大さは“真の教師”でもあること。2003X31
乙女より清楚に可憐ひっそりと風に吹かれて路地のほおずき
オトメヨリセイソニカレンヒッソリトカゼニフカレテロジノホオズキ
・
@人心の乱れとは裏腹に頭上の「虚空」だけは蒼く高く澄み切っている・・・・ 乱れも暗愚も勿論わが裡にある。 2003X27
薔薇の實は虞も知らで宙を指し暗愚叱るか虚空蔵菩薩
バラノミハオソレモシラデソラヲサシ アングシカルカコクウゾウボサツ
・
@18歳 高校生「牡」が交尾相手28歳の 4歳幼児を蹴り殺す。鬼畜そのもの 鬼子母神も哭く イスラエルは占領地域で虐殺を続け 人には虫の霊性もない。
2003X23
人の世は鬼畜の如き。神無月 秋冥菊に蜜すう佛
ヒトノヨハキチクノゴトキ。カンナヅキ シュウメイギクニミツスウホトケ
・
@動物に挨拶されない人が増えているらしい。虫や樹も含め 生き物は人を見ているし感じている。「私欲」のない分 騙されたりしない・・・ 2003X15
夕寂びて柘榴おちたる湯屋のみち誰もいないと猫会釈する
ユウサビテザクロオチタルユヤノミチ ダレモイナイトネコエシャクスル
・
@肌寒い十三夜に泡盛の古酒を愛でる。瑞泉「おもろ」43°‘土龍の皮’とはイギリスの生地でバーブアー社が巧みに用いる綿布。 2003X10
庭に出で古酒の香を利く十三夜 土龍の皮のシャツを纏いつ
ニワニイデコシュノカヲキクジュウサンヤ モールスキンノシャツヲマトイツ
・
@秋が来た。さわやかな秋風の音を爽籟とも云う 鄙びた小さな温泉や寂びた露天風呂に吹く風が 気持ちよく頬を撫でていくが 2003X02
爽籟も空の碧さも秋櫻も みなかなしうて温水を呑む
ソウライモソラノアオサモコスモスモ ミナカナシウテヌルキミズノム
・
@癌のことをキャンサーつまり蟹と呼ぶ事を知ったのは 識字まもない頃の事だった筈・・いま齢を経た甲羅に冷たい秋雨が深く滲みる 2003924
携帯に、咽病む友が、ザーザーと、昔の仲間、死にたる。を告ぐ
デンワニテノドヤムトモガキレギレニ ムカシノナカマシニタルトツグ
・
@霊柩車に出逢っても感慨はないが 路傍で小動物の遺骸を見ると心が揺れる。山鳩が馬頭観世音の近くに倒れていた 杜からは同朋の聲が哀切に響く
2003807
山鳩の骸をぬらす驟雨あり青い胡桃がともに濡れおり
ヤマバトノムクロヲヌラスシュウウアリ アオイクルミガトモニヌレオリ
・
@蝶も蛾も 美しく見える刻と不吉な感じを受ける際がある。
観照と心の不思議・・・これはどちらだろうか・・・ 2003805
炎天に石割れている、黒揚羽。翳したがえて黄泉の包帯
エンテンニイシワレテイル クロアゲハ カゲシタガエテヨミノホウタイ
・
@釋迢空/折口信夫の作歌における句点と読点の実験的実践から学びたい。
必要ならば取り入れよう。 2003803
鬼蜻蜒午後の王位を曳航す。封緘されし白亜紀の風
オニヤンマ ゴゴノオウイヲエイコウス フウカンサレシ ハクアキノカゼ
・
@蝸牛とも舞舞螺とも書くでんでん虫 誹風柳多留にこんな句が
「かたつむりどこで死んでも我家なり」 2003801
かたつむり眠りを薄く密猟す義足の花火と麦藁の戀
カタツムリ ネムリヲウスクミツリョウス ギソクノハナビトストローノコイ
・
@「古空や蛙飛びこむ百舌鳥の口」芭蕉のパロディが浮かんだ・・・
そのヴァリアントとしての短歌=短詩の試み 2003730
古い空
枝で蛙が
月を蹴る
殷の駱駝は
憂鬱を噛む
・短歌ではコーダ「今日も憂鬱」が五行詩では変えてある。
・短詩と短歌の形式/成立には極く僅かな差違があるようだ・・・
・敢えて「カエル」と読ませたい。
古い空枝で蛙が月を蹴る殷の駱駝は今日も憂鬱
フルイソラ エダデカエルガツキヲケル インノラクダハ キョウモユウウツ
・
@虚實の間にも皮膜や壁があるのなら、音速の壁を超えたチャック・イェーガー大尉のように勇ましく突破しよう(笑)・・・ 2003728
土星にて虹舐られて硬貨トス詩人の足袋が浮く地中海
ドセイニテニジネブラレテコイントス シジンノタビガウクチチュウカイ
・
@怒っても嘆いても泣き叫んでも 穢土は永劫に淨土たり得ない。
笑い、洒落のめして嘲りの毒を自らも仰ぐ・・・・・
江戸狂歌風連作『性々素転コロリン』 2003724
乳母車鏡をつんで橋の上香水の雨河童が覗く
鼈甲になると想った軟骨漢アタマ腫らして背負う海亀
腫れ河豚は〆戸閉まらず墓に破瓜屠る故園の莫迦にフェロモン
ウバグルマカガミヲツンデハシノウエコウスイノアメカッパガノゾク
ベッコウニナルトオモッタイロオトコアタマハラシテセオウウミガメ
ハレフクハシメドシマラズハカニハカホフルコエンノバカニフェロモン
・
@「生きるのに絶望しながら、死にたくはない、そんなことが可能だろうか」
A.モラヴィア『1934年』冒頭の名台詞。・・・2003722
いらぬもの、美貌美食や美辞麗句地位大金やモテルこと等。
のぞむこと、閑かな心澄んだ息粗衣と粗食と小さな暮し。
イラヌモノビボウビショクヤビジレイクチイタイキンヤモテルコトナド
ノゾムコトシズカナココロスンダイキソイトソショクトチイサナクラシ
・
@歳月と共に天然の風情や侘び寂びへの感受性は深々としてくるようだ。
加齢し生物として枯れていくことの肯定的な側面・・・ 2003718
棄てられしビニ傘同じ色をして胸張り枯れぬ夏の紫陽花
ステラレシビニガサオナジイロヲシテ ムネハリカレヌナツノアジサイ
・
@この世に登場したばかりの雀の子が走りまわっている。
一茶と、ルパート・シェルドレイクの理論を思い出す・・・2003716
雀の仔云われなくとも駆け廻り無為と稚拙と無垢を散華す
スズメノコ イワレナクトモ カケマワリ ムイトチセツト ムクヲサンゲス
・
@‘初経’と較べ男子の‘精通’は不思議なほど影が薄い。
哀れ十二歳の殺人者 無惨なり四歳児・・・・ 2003714
嬰児の夢の褥を剥がされて精通の躯に御空・は・か・な・し
みどりごのゆめのしとねをはがされてせいつうのみにみそらはかなし
・
@子供が幼児を殺し 子供同士が 親子夫婦が殺し合う この世こそ地獄。
その地獄の一郭にある台所に蟻の行列 2003711
初夏の蟻胡麻より軽きその粒に狎れ初めたるポアす指先
ショカノアリ ゴマヨリカルキ ソノツブニ ナレハジメタル ポアスユビサキ
・
@南洋堂からスケッチとサイン入りの「TADAO ANDO DETAILS 3」が届く。
速度と質量があって軽快な素描の到来を壽ぎて 長歌風 2003709
老成の文読む日々に誂えし吾が執事氏は英國胡桃の大机なり
ロウセイノ フミヨムヒビニ アツラエシ アガシツジシハ ウォールナットノ タイキナリ
・
@梅雨明け夏本番へのお膳立てはすべて調っているようだ。
曇っていた筈の空には夏の雲と蒼空が・・・ 2003708
漬物の小茄子色した朝顔が疲れ切ってる午後二時少し
ツケモノノ コナスイロシタ アサガオガ ツカレキッテル ゴゴニジスコシ
・
@俗世では七夕。 雨空に 逝ってしまった多くの友人達のことを想う。
死因は皆、癌さもなくば自死・・・・朋友は減るばかり 2003707
複葉機玩具を掌にしボンヤリと 癌と闘う朋二人いて
フクヨウキ オモチャヲテニシ ボンヤリト ガントタタカウ トモフタリイテ
・
@古い古いジミヘンの実況録音盤を聴きながら雨後の合歓木を観にいく朝
街も風も睡る 2003703
喧しきジミヘン連れて逢いにゆく雲淡き日の煙る合歓木
ヤカマシキ ジミヘンツレテ アイニユク クモアワキヒノ ケブルネムノキ
・
@没後37年シュルレアリスムの法王ブルトンの遺品6400点がオークションに
あの見事な20世紀藝術の標本函/眞の呪術的空間が消え・・・ 2003701
春の巴里ブルトンの夢散ってゆく さらば鳳凰霊的革命
ハルノパリ ブルトンノユメ チッテユク サラバホウオウ レイノカクメイ
・
@土は偉大な錬金術師だ。鉱物を創り 水と光りと風から花を合成する。
六月は際立って花の色が鮮やかな「水の月」 2003628
蝶となり鮮花色を瞳に刻む 死したる后の記憶のために
テフトナリ センハナイロヲ メニキザム シシタルノチノ キオクノタメニ
・
@よく晴れた日 山に行き 温泉の縁側から百日紅の古木を眺める 見事な枝振りに 音楽を視る心地がして 「江戸」へと還ってしまう・・・ 2003623
温泉の淵に据わりし百日紅 蝉全山に鳴き念佛す
オンセンノ フチニスワリシ サルスベリ セミゼンザンニ ナキネンブツス
・
@颱風6號が対馬海峡を通って日韓の間をすり抜け 面白い軌跡を描いて 器用に日本海へ抜けていった 2003620
颱風の烈し風のみ残りたる朝陽を浴びつ塵芥棄てに行く
踊りつつ唱う楓と出逢いたる大風遺す朝の脇道
タイフウノ ハゲシカゼノミ ノコリタル アサヒヲアビツ ゴミステニイク
オドリツツ ウタウカエデト デアイタル オオカゼノコス アサノワキミチ
・
@雨の季節‥‥足の下が愉しい 水玉、波紋、水溜まり 形而下に遊ぶ
2003619
長靴とTORAYA餡麺麭鉱物図鑑BossaNova聴いて梅雨の温泉
アメノオンセン
・
@雲が低く流れ 雨の匂いが近づいたときの 束の間の幻影‥‥‥
2003615
雷に撃たれて死んだあなたです 雨の中飛ぶ蜻蛉の純情
カミナリニ ウタレテシンダ アナタデス アメノナカトブ トンボノジュンジョウ
・
@まだ蕾さえ持たない六月のリンデンバウム。その樹幹を眺めていたら いつの間にか凝視/睨みつけていた・・・・・何をか。 2003611
菩提樹の 幹在戦争 迷彩す 歌詠みの詩 うたいたくな屍
ボダイジュノ ミキイクサアリ メイサイス ウタヨミノウタ ウタイタクナシ
・
@新刊書籍の台に『無用の達人 山崎方代』 表紙肖像に興を覚える。 冒頭の数頁を立ち読みすると戦傷により隻眼 職に就かず終生独身。奇矯の歌人 らしい。
2003603
夕餉了へ山崎方代ググル刻 不意に啼き去る寂びし郭公
ユウゲオエ ヤマザキホウダイ ググルトキ フイニナキサル サビシカッコウ
・
@夏のような五月が終わる 今日も暑くなりそうだ
茫茫たる幽艸堂の無精さよ。 2003530
夏皐月 帽子目深に草むしり つと眼前に雪ノ下咲く
ナツサツキ ボウシマブカニ クサムシリ ツトメノマエニ ユキノシタサク
・
@よく晴れた五月の公園でベンチに座って昼から飲む酒。
やや自堕落な気分とアルコールの昂揚が何とも甘美。2003523
白昼ヴォッカ公園で呑む愉しさよ 不良魂忘れたくなし
ヒルヴォッカ コウエンデノム タノシサヨ フリョウゴコロヲ ワスレタクナシ
・
@初夏早朝に郭公の聲 憂き世に何事があろうと閑かに響いて心耳を洗う。
2003521
曙にやや遅れたる一碗を 嘉する如く頌う郭公
アケボノニ ヤヤオクレタル コーヒーヲ ヨミスルゴトク ウタウカッコウ
・
@見ると其処に大輪の牡丹が咲いている。過ぎ行く光陰を想う。
2003513
睡たげな乳房揺らすか牡丹花 零れるほどに光を浴びつ
ネブタゲナ チブサユラスカ ボタンバナ コボレルホドニ ヒカリヲアビツ
・
@欅の巨木を飽くことなく一年中眺めているが
葉の内側から発光しているような新緑の姿に最も惹かれる。
2003501
透明な 力の如き 輝きに わが瞳離れず 欅の杜で
トウメイナ チカラノゴトキ カガヤキニ ワガメハナレズ ケヤキノモリデ
・
@白い山吹が咲いている。楚々とした花と無駄のない葉の形
残っている實の様子が 何とも侘びて しかも瑞瑞しい。
白山吹の時間は重層的である。 2003429
去年の實が 今年の花と 一枝に 白山吹を 机上に師とす
コゾノミガ コトシノハナト ヒトエダニ シロヤマブキヲ キジョウニシトス
・
@暑くなったと思うと涼しい朝も訪れる。
成長に伴う不安定な感じは春の持ち味か・・・
恐らく人もそうであるだろう。2003422
草艸が 樹樹木木の 花花が 命を謳う 卯月払暁
クサグサガ キギモクモクノ ハナバナガ イノチヲウタウ ウヅキフツギョウ
・
@春というより真夏のような陽気がいきなり訪れ、
染井吉野も山桜も枝垂れ桜も一斉に満開となった先週。 2003421
夏日にて 雲湧くごとく 咲く櫻 天地乱心 妖気爛漫
ナツビニテ クモワクゴトク サクサクラ テンチランシン ヨウキランマン
・
@唐突とも思えるほどの大きさで木蓮の蕾が空に突き出した。
枝に留まった鳥の群にも見えるこの花は鮮烈な存在感を
早春の大気に与えている。 2003410
木蓮が 蕾突き上げ 虚を祓う 冬に不在の 天叱るなり
モクレンガ ツボミツキアゲ キョヲハラウ フユニフザイノ テンシカルナリ
・
@第二次湾岸戦争が始まった。アメリカの兇悪さに呆れる。
同じように日本も決して無辜であり得ないことを想う
2003320
一億の 鸚鵡の民が 聲揃え 反戦謳う 彌生は寒き
イチオクノ オウムノタミガ コエソロエ ハンセンウタウ ヤヨイハサムキ
・
@麻布十番に新感覚の骨董横丁が生まれていた。そこの〈ホーボー〉という店にお面のような太い針金細工があった。何かと訊ねると秋田県で見つけた「牛のカンジキ」だという。稚拙さ故に伝わる飼い主の慈愛。 2003307
雪の野を 歩みし牛の 足救く 番線編みし 眼と手尊し
ユキノノヲ アユミシウシノ アシタスク バンセンアミシ メトテトウトシ
・
@できる事なら二十歳になる前に死にたい 少年の日々の夢想を裏切って 遙かに生きた 生きている。精確には「既に余生」を豪語したのである。 2003304
十九にて はや晩年を宣したり 架崖痩木 霊護るため
ジュウクニテ ハヤバンネンヲ センシタリ カガイソウボク タママモルタメ
・
@痛風の発作には何時も予兆がある。右足親指が ピクピクッとしたら945ヘクトパスカル 亜熱帯洋上に大型低気圧発生である。 2003303
颱風が 生まれるごとく 痛風す 吾が踝は 南海を有つ
タイフウガ ウマレルゴトク ツウフウス ワガクルブシハ ナンカイヲモツ
・
@99年 初の琉球弧訪問 西表島にも足を延ばした。マリユドゥの瀧には礫岩が砂岩の河床を穿ったポットホールがある。水流で自転し盤石に穴をあける現象は太古より愉快にも現役である。2003226
大巌 穿ちし穴に 礫は棲む 天を廻すか 今に至るも
オオイワオ ウガチシアナニ レキハスム テンヲマワスカ イマニイタルモ
・
どうやらその時が来たようだ 封印されていた詩心を放つ刻が 。
ワタクシはカミングアウトする 自分が「詩人」であることを 。
あれほど嫌がっていた
詩人なるモノの 呪われた血が
僕にも流れていたことを 認めよう。
何故かは判然としないものの
その切っ掛けは この『関心空間』であったように思う。
幾つかの要素が そのことに気付かせてくれた。
旨く云えないが 感謝している。
・
@獅子座流星群との久々の邂逅を 壽ぎて
凍天を 斬りゆく星に 空晴れて 雲に乗りたる 我が菩薩かな
トウテンヲ キリユクホシニ ソラハレテ クモニノリタル ワガボサツカナ
この歌を 挨拶に代えよう。
以後できた歌は冒頭に掲載するつもりである。
いわば 結社の〈機関誌〉としての役割をこのKWに負わせようという魂胆である(笑)。
「来るべき第一歌集」の名は 『関心空間』での「発芽」を記念して
『雲衣狂生/digital signals』と名付けよう。
雲を衣て狂って生きる そう考えて貰って結構です。
教養ある人ならば「狂雲集」を思い浮かべるかもしれない。
・
つい先日読んだ『鶴見和子・対話まんだら/「われ」の発見 佐佐木幸綱の巻』〔藤原書店〕は大変に深い本であり
スリリングで面白く また詩人としての「われ」を発見させてくれた。お二人にも感謝したい。
だからデジタル歌集『雲衣狂生』は
わたくしの「歌」は正統な異端と云うよりも
「アニミズムの最前衛」になるだろう・・・・
・
@冬 最も好きな景色のひとつが葉を落として風無くとも震えるような 大きな欅の細い枝の「線」とそれが作る「全球」だ。
其処に僕はいつもレンブラントの銅版畫を見る。
或いは仄聞する量子力学の現在地を想う。2003224
フユヤシロ フルエシキュウト タツケヤキ レンブラントニ リョウシリキガク
・
@昔六本木にK2というデザイン事務所があった 今もある。当時、借りていたビルが取り壊しになるとかで 壁に何か落書きを描けといわれ 句らしきモノを大きく書いたことを思いだして。 2003225
ゆるゆると ゆるりゆるゆる 夕陽まで 午睡を句う 若き日の我
ゴスイヲウタウ ワカキヒノワレ
・
↓一昨年の作である。いわば離陸直前 滑走の時期にあたるのだろう。これも関心空間に書いた文中に出てくる。
@ちいさな山の温泉に 雨上がりの道を歩いて往く。ふと見ると朱い腹を見せてカマキリが仕合わせそうに横たわっている。
杣道に 朱服みせたる 蟷螂や 子は成したかな 無常の前に
ソマミチニ シュフクミセタル トウロウヤ コハナシタカナ ムジョウノマエニ
@先年も今頃 まったく同じ場所で蟷螂の死骸を見た 同じカマキリのワケはない。・・『去年マリエンバートで』・・時間軸に縦の共時性か。そのことを思い出し 歌心が甦る。
蟷螂が 伏して候 侘び深く 去年詠みし歌 湯への秋山
トウロウガ フシテソウロウ ワビブカク コゾヨミシウタ
ユヘノアキヤマ
・