美貌の青空 / 土方巽

2003年10月19日 土方巽夫人 元藤あき子さんが 眼を閉じられた。

75歳。アスベスト館の存続に懸けられた晩年だった。御冥福を祈る。

彌生三月の末に消滅したアスベスト館 

遺されたひとつの形見とでも云うべき本が出版された。

土方巽の舞踏世界  中谷忠雄写真集』

アスベスト館と土方巽の舞踏の魂は 

この本の中に再臨した如く 

毅いモノクロームの画像となって

此処にある。

細部にまで神経の通ったこの写真集は

あり得ない 

水準の《美》を

見事な形にした。

初回限定で「特製オリジナルプリント」が 

扉に添付されている。

 

2003年4月1日 第一刷発行 心泉社刊 34oo円。

満蒙少年義勇軍・満鉄勤務の経歴を持つ特異な写真家

中谷忠雄氏は この写真集の出版が決まった昨年末に

安心して帰幽したという。

以て瞑すべし。

  さらば アスベスト館 

   されど永遠なり アスベスト館。

          ・

言葉の天才にして〈舞踏神〉。土方巽の遺文集のタイトルにも使われた特別の言葉。

1969年『美術手帖』5月号に発表された「犬の静脈に嫉妬することから」に初めて使われている。

言葉に敏感だった芥川賞版画家、池田満寿夫は美貌の青空というただひとつの言葉に触発され、

同名の版画作品を作っている。

この一語に戦後日本前衛の夢と希望全てが詰まっていると言っていい。

象徴的な、

文字通りのキーワード。

同じような言葉、特別な力を持った言葉に

《ズボンをはいた雲》1915年マヤコフスキー

《雲のハンカチ》1924年トリスタン・ツァラ

がある。

もう一度書こう。

《美貌の青空》1969年ヒジカタ・タツミ