黴雨瀟々。

激しい雨だから温泉にも行けない。

すると なんだかディランが聴きたくなった

どこかにあった筈と『UNPLUGGED』を探し

もう既に持ち歩くことのないまま

プレイヤーとして使っている

毀れかけたCDウォークマンをだましだまし動かす

スピーカーからの音をすこし大きめにして

あのだみ声に溶ける

ああ お互いに歳をとった

天国か地獄かしらないが 扉を叩く日も

そう遠くはない

そういえば 先日 温泉で

      ときどき露天風呂のなかで会う

      名前も知らない人に

「もうドブロクはつくりましたか」と聞かれた

いえ まだまだと笑って答えたものの

秋になったら 真剣に造ろうと 決心した

古い米を使い 温泉の水を使って

       真面目に造ろう

       本気で造ろう

どぶろくを造れる正しい日本のお爺さんになろう

どぶろくが呑めて 温泉さえあれば

      ああ 素晴らしい人生だ

フランス語やギリシャ語ができなくても

チェロが弾けなくても

ヴィンテージ葉巻のコレクションがなくても

    悪くない悪くない もひとつおまけに 悪くない

小さな小屋に棲み 

くたくたになった芭蕉布の古着を纏い

どぶろくを酌みかわす

晴れた日には 温泉に行こう

温泉で 温泉で 温泉で

温泉で 雲に乗ろう

         死ぬまで 雲に乗っていよう

         温かい雲に 浸かっていよう

(かく雨中妄想は厳粛かつ緩慢に流れゆく/笑。)