夷齋學人こと石川淳は『夷齋筆談』の冒頭に置いた《面貌について》で こう述べている。
「黄山谷のいふことに、士大夫三日書を讀まなければ理義胸中にまじはらず、面貌にくむべく、ことばに味が無いとある。いつの世からのならはしか知らないが、中華の君子はよく面貌のことを氣にする。」
いやいや 中華の君子のみならず 我が夷齋石川先生も名著の誉れ高いこの書の しかも いきなり最初から お書きになっているのだから けして決して隅に置いたもんじゃない。
かくして 石川淳の文言で最も有名な
「本を讀むことは美容術の秘藥。」
は 此処に顕れた。
黄庭堅も 妙な名前の残し方をしたものである(笑)。
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若いひとと話していて ひとは顔を見れば分かる。
と言うと 吃驚した顔をする人がいる。
そんな・・莫迦な・・と思うらしい。
顔を見ても分からないと思う方が
そんな無理なと思うのだが・・・
ところが 若いひとだけじゃなくていい歳の大人もそう思っていることに 最近になって気づいた。
いいですか 骨董に限らず 物言わぬ物品 例えば皿小鉢ですら よく見れば その物の善し悪しは 判断できる。
ましてや 人間は 生きて自分の好みで服を着て
おまけに 口まできくのだ。
分からない方が 難しいし 道理に反する。
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ただし 眼や心が 曇っている場合はその限りにあらず。
愚者や匹夫は 同じ愚者や欲の深いものを見抜けぬものらしい。
大掛かりな経済詐欺で捕まる人物の 写真その他を見ると 此を信じた方に問題があるとしか思えぬほど 悪相が揃っている。
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昔の日本人の顔に 何かのヒントがあるような・・