《竹林月夜》大和國安堵村と富本憲吉。
東京美術学校図案科在学中の22歳で ウィリアム・モリスの工藝思想や 当時の欧州建築を学ぶために英國留学した富本憲吉は
ロンドンで知り合った高村光太郎の紹介で、帰国後バーナード・リーチと知り合い やがて陶芸に手を染めることになる。
28歳で青鞜の女流画家 紅吉(べによし)こと
尾竹一枝と結婚。
故郷の奈良県安堵村に新居を構える。
訪れてきたリーチと散歩中に「竹林月夜」の風景に出逢い 紋様の構想を得る。
以後 富本憲吉を生涯貫く工藝思想
“紋様から紋様を作らず”が 生まれた。
人生とは 出逢いとは 不思議な物である。
薊 芍薬 花の字 など彼が作りだした模様紋様は
数々あるが やはり代表作は
『色絵金銀彩 羊歯模様』だろう。
特に外が白磁で 内側が金彩銀彩の羊歯紋様になった
小さな飾り筥などは 正に宝物であり同時に何という美意識だろうと 溜息が出る。
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それにしても 昔 神保町の本屋の二階で見た
絹本の『竹林月夜』からは確かに風を感じた。
あの時何故買わなかったのかと すこし悔しく ちょっと寂しく やや哀しくも 懐かしく想う。
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富本憲吉と一枝夫妻の話で一番好きなのは
憲吉が文化勲章を貰う話が決まった時
かつての紅吉 一枝は 貴方は國からそんな物を貰うのかと反対したそうである。
これは何時だったか 『暮しの手帖』に息子さんが書いていたからホントの話。
忘れられない逸話だ。
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