黒田辰秋

一昨年、豊田市美術館で開かれた黒田辰秋展の図録を

お土産にくれた友人がいて

そのお陰で 行けなかった展観を偲んでは

今でも飽きもせず眺めている。

辰秋さんは名前からしてそうなのだが

夏が終わり秋が深まり始めると決まって思い出しては

写真で良いから作品を見たくなる。

木という素材の中でも特に選び抜かれただろう品物の

木目はまるで魔法の如く 心を内側から温もらせる。

骨董は陶磁を愛好するのが初歩初心で

やがて木工と布帛に至るとの説があるが

どことなく頷ける。

精霊は植物に近い存在なのだ。

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黒田の作品は棚やテーブル、椅子や三面鏡に至る

大きな物も面白いし魅力的だが

僕は小さな物に特に惹かれる。

あの神秘な宝物とも云える螺鈿を含めた筺/手筥

そして更に小さな棗や茶入れ。

或いは志賀直哉が愛用した

昭和10年作の「白タモ葡萄杢インク壷」

これについては直哉が語った面白いエピソードがある。

“これは怖いインク壷だ。これを持つと、これに合う机が欲しくなる。

似あう机が手に入れば次は、屹度それにあった家が欲しくなる。

壷ひとつのために家が必要になるなんて、凄い話じゃないか。”

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流石に直哉である、物というものを洞察する。

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蔦/金輪寺茶器 昭和40年代