〈神秘をコップに挿した〉長谷川潔

この明治の日本が生んだ偉大な藝術家を

どのように説明したらよいのか。

1918年27歳で横浜港を出帆し、

以来1980年に89歳で巴里に没するまで

一度も故国に還らなかった

強靱な意志の人。

遺著『白昼に神を視る』の中で

彼は、自然と神と神秘を こう述べている。

《地球上の目に見える世界をとおさないと、見えない

世界にはいっていくことはできない。しかし、見える

世界のほうがはるかに小さい。これを私は静物画に描く。》

《自然の随所に真理は閃き出ている。》

《一木一草をつかもうとすると必ず神に突きあたる。

若い時には判らなかったこのことが、私には歳ととも

にだんだんと判ってきた。たとえば、木が、なぜこん

なにたくさんあるのか、と。この問いを徐々に押しす

すめていくと地球全体の問題となる。》

《若いとき自分が、なぜ、ムンクやルドンに惹かれたか、

その理由が、このごろになって私にはようやく判ってきた。

要するに神秘の感情を彼らは表現しようとしたのだが、しかし、

神秘的光景を描くことによってそれを表現しようとした。

これに対して私の態度はこうなのだ。

私は白昼に神を視る、と。》

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『コップに挿した野草(秋)』1951.Burin