おほてら の まろき はしら の つきかげ を つち に ふみ つつ もの を こそ おもへ

秋艸道人・會津八一は佳き教師であり、優れた学者であり、傑出した詩人・藝術家であった。

このような人は稀である。

「キーワード」を漢字に変換してみよう。

大寺の 圓き柱の 月影を 土に踏みつつ 物をこそ 思え

月影とは「月光」のことだが、ここでは光のつくり出す影を意味している。

影が光を、光が又影を示す日本語の両義的面白さ。

足許から何かしら透明で繊細な力が伝わってくるような歌。

此処にはゲニウス・ロキと云うにはあまりに静かで清浄な空間がある。

光とその陰影がつくり出す魔法。

想うとはそのような事。

「大正十四年の春、奈良の旅に出かける時、私はいつになく、乗馬ズボンに拍車の付いた長靴を履いて行った。」に始まる

『乗馬靴』と言う随筆が

この人の資質を大変佳く表している。

この上ない程濃厚な幻想のなかに生きていた。

しかも知性を失わない。

逆にいえば

巨大な知性こそ、

芳醇な幻想性を保証する。