跛行する供物  あるいは「虚無と聖性の消失点」

   《 終生「死」だけを主題にしたストイックな「錬金術師」ON KAWARA への輓歌 》

一昨日 午前のこと

   自転車に乗っていて ある学校の横の路で

     白と黒 斑の鴉をみた 

        おまけに 重い跛を引いていた

    ぼくは これまで短かからぬ時間を生きてきて

        半世紀前の映画『黄色いからす』も知ってるが

      

             羽の三分の一が白い 斑の鴉は 初めてみた

      一瞥したあと

 何ともいえない「切ない感覚」に胸が占領された

     クルマにでも跳ねられ その心的外傷から

          羽が 白くなったのか 。。。。

              それとも   、、、 被曝による貴種畸形の流離

                おまけに跛行 

           もう永くはないだろう 今生

       胸中を察するに剰りある

  The Raven アラン・ポー『大鴉』が頭をよぎった

     

           Nevermore!!

         その夜

     河原温の訃報を読むことになる

            《 On Kawara Dead at 81

              

              ぁ  河原温が 死んだ

        ぼくは 若い頃

   一度だけ彼と「遭遇 / I MET 」したことがある。 

          まさに一期一会だった 。。。。

                    ★        

    世界中の壁面で あるいは貸金庫で 死後硬直と極微の痙攣を永遠につづける「日付」は 

                   やがて

           投機対象 偽の黄金 愚者の黄金として 痩せた「裸体」を曝すだろう

                   数字から数字

                   日付から金額へ

          死とともに 世俗に回収されてしまう かつての聖遺物 /イコン   

                           さらば 河原温

                    デュシャン ジャコメッティ ウォーホルとならぶ 

                          偉大な魔法使いたちの弟子 

                          老獪で叡智ある逃亡奴隷 

                          世界を欺く聖なるペテン師 

                                    ON KAWARA よ

            キミの最も愛らしい 香しい果実は 

         まるで夏休みの子ども日記のような「 I GOT UP AT 」だった

                   睡れ 眠れ

              昏く深い久遠の幽玄を我がものとして

               もう目覚めなくて いいのだから 

                    ★

          ぼくの手許には 二〇冊ほどの彼の作品集が遺った

                    ★         

         虚無が 太虚が 虚空が喪われたあとには 何が残るのか

                   ぼくには

       子供じみたホーキングたちの「ビッグバン理論」より ずっと興味がある

             C.S.バースなら 答えがあるかもしれないナァ/笑。

※ ぼくの中で 河原温大藪春彦の隣の部屋で暮らしている 河原は大量殺人をしない伊達邦彦であり穢れを意識する北野晶夫 要するにニヒリストでアナキストなのだ 1933年生まれの河原温と1935年に生まれた大藪春彦 間違いなくふたりの人生に大きく陰を落としているのは「無条件降伏」による敗戦とそれに続く腐った社会への「怒り」だった

ON KAWARA は小説家以上に極北までの虚無を追求した 無言でストイックにカンバスに向かった大藪春彦である

彼らは 1930年代に産まれた特異な人格 中村泰 伊藤史朗とほぼ同じジャンルに属す 敗戦が生んだ「貴種」であり 敗戦時に見た日本人の無様さ 廃墟 焼け跡体験から育まれた「ハードボイルド/ストイシズム」を精神深く烙印された根っからの〈浮浪児〉なのだ。

            《 河原温は 失語症になった 大藪春彦である 。。。》