SF6 /(六フッ化硫黄 )

眼球の中にあって容積の大半を占める“硝子体”はゲル状の物質で 他の物質による代替が可能である。だから網膜剥離の手術では硝子体を抜き 代わりに一旦【SF6】六フッ化硫黄ガスを充填する。このガスの浮力を応用して 剥がれかけた網膜を 再び元の位置に押しつけようというのだ。

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僕の場合 かなり重度の剥離だったから手術は3時間近くに及んだ。その間 局部麻酔だから勿論意識は普通と同じにある。そして精密な手術だから身動きは全く出来ない。これはかなり苦痛だ。

そのとてつもなく永く感じられる時間中 多分15分毎だったと思うが自動的に血圧を測定する際の 腕に感じる機械的圧迫感だけが「ともだち」であり「とけい」だった。

一番凄い発見は 眼球内部で動く 手術用の細い「器具先端」が視えることだった。

眼球内部は 知覚できるモノなのだ。

 

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仄聞するところ この手術は 第一次大戦後のドイツで 開発されたものという。

その後は ガスが自然に抜けるまで 3週間に渡る俯せ姿勢が待っている。

まさに『西部戦線異状なし』的状況である(笑)。

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この【SF6】ガスは 京都議定書にも取り上げられている地球温暖化ガスの一つで

強力な電気的絶縁性があるために そのほとんどは電気的な用途に用いられている。

そして このガスの副作用として水晶体に損傷を与え 白内障状態になるため さらにもう一度の手術が網膜剥離患者を待っている。

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ガスが抜けると自然に「体液/水分」が硝子体に変わって埋める。

眼球内に水が溜まっていく過程もよく見えた。

これは天地逆様の文字通りSF的な光景で コロコロと集合離散を繰り返す気泡/水滴が水面下!を転がって極めて美しく 愉しかった。

なんの事はない ゲル状硝子体じゃなく単なる水気でいいらしい(笑)。