『一色一生』天を染め地を織る。志村ふくみ

今から20年前 昭和五七年に求龍堂から出た 志村ふくみさんの最初の文章による著書 『一色一生』は 落ち着きと初々しさを併せ持った 名実ともに美しい本である。

講談社学藝文庫にも入っているが、

こういう美しい文章と深い内容を持つ本は 出来れば当初出版された姿で読むのが最も善いと想われる。本の大きさや厚さ 手に持った時の感じも含めてこそ “その本”だから。 

著者自装による これも美しい本『織と文』の年譜をみると

この類稀な工藝家は 二人の子を成した後の 30歳で

両親と昵懇だった柳宗悦と出会い 織物を勧められて

『工藝の道』を読み 深く感動し織物の道を決意する。 

翌年 離婚。 6歳と2歳の子を養父母に預けて 

実家に移り住み

植物染料による染色と 紬糸による織物を始めた。

1955年 今から約半世紀も前のこと。

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その後 黒田辰秋 富本憲吉 稲垣稔次郎

あるいは今泉篤男・・ 等に師事

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この人の年譜で最も特徴的なのが「師事」の文字だ。

それから ゲーテの『色彩論』 

ルドルフ・シュタイナー人智学に至るまで

この人は 学ぶことを 停めない。

何と 恐ろしいまでの謙虚さか 浄く深い欲望か 剛い願か。

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布とは 色とは 織とは 着物とは 人とは

     人は如何に暮らすべき

全く実用を 離れたと見えるような 着物を

織りながら この人は 

指で 眼で 心の奥の奥で 言葉ではない言葉で

祷るように 考える。

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ところで 志村ふくみさんの本『織と文』。

あれは何と 発語するのだろう。特に『文』

ボクは始め もん と読んだ。文様の もん。

やがて 素直に ぶん とも思った。

着物の写真と 文章で構成されているから。

更に少し時間が経つと あや とも想えるようになった。

詞のあや 綾織りのあや

 

おりとあや。 

妖しくも美しく 『一生一色』『織と文』

さすがは 柳宗悦から シュタイナーへ 

一貫して神秘道を 歩み続ける人ならではの こと。

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      ことのは 言の葉 異の葉 異の端 異端

    ことは 異端と見付けたり・・・

   

          笑 

         

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